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「『教育への権利』に関する特別報告官による声明」


予備報告より 「義務教育:子どもの権利と義務」

 声明に先立って作成された予備報告(1999.1)は、声明文(1999.4)の約5倍の分量があります。
 その構成は、

はじめに
I. 『教育への権利』に関する現状―国際連合の組織の中でなされていること
II.『教育への権利』を実現するための国家の責務
III.義務教育:子どもの権利と義務
IV. 結び

となっています。

 III章は、子どもの権利条約の「権利の主体としての子ども」という視点から、義務教育を見なおしたもので、今後につながる新しい問題提起を含んでいます。
 III章のうち、78.の内容は、声明文に生かされていますが、他の部分に対応するものが声明文にないので、ここに訳出しました。

III. 義務教育:子どもの権利と義務

75.義務教育は古い子ども観の反映
 1959年の子どもの権利宣言は「教育を受ける子どもの権利」を定めました。これは、子どもを『教育への権利』の主体としではなく、教育を受け取るだけの者として見る、当時の子ども観をはっきりとあらわしています。子どもの権利条約で具体化された、「権利の主体としての子ども」という新しい子ども観は、徐々に各国の法律や政策に導入されてきています。

 子どもの権利条約も、義務教育を定めています。義務教育には疑いようもない価値があるからです。義務教育は、「子どもの権利」という概念よりもずっと古くからあり、たとえ無理に押し付けられたものであっても「与えられた教育を受け取る者」という受身の子ども観を反映しています。たしかに、初等教育を義務的なものにする政府の責務からは、学校に出席する子どもの義務があることになります。しかし、子どもの権利条約は、義務教育を子どもの権利のあらゆる領域にしっかり沿うものにしていくことを求めているのです。

76.国別の義務教育期間についての表とその説明
 表6は、初等教育が義務になっている国を、義務教育の年数にしたがって分類した一覧です。義務教育期間の長さは国によって3年から12年にわたっています。-図表 略 -

77.義務教育を強制することは重大な人権問題
 義務教育の法律を実行に移す能力は、国によってさまざまです。同じように、強制措置にもさまざまなものがあります。
 多くの国は、親をターゲットにし、子どもを学校に就学させない親や、子どもが学校に出席するよう保障しない親に対して罰金を科しています。 しかし、子どもをターゲットにしている国もあります。だからこそ、義務教育を強制することが重大な人権問題となるのです。

 子どもの権利条約は、各国政府に対して学校への出席を奨励するように義務付けているだけです。強制することまでは言及していません。

 ヨーロッパ人権条約のような、より古い人権条約は、教育的管理の目的で未成年者を拘置することを合法的なものとしています。これは、「義務的な学校教育」という言葉をもっとも狭く解釈したものです。登校する義務を破ったかどで子どもを罰するために、「怠学」という特別な罪が作り出されました。

78. 教育を選択する親の権利
 各国の実践を見ると、初等教育を義務的なものにすることが広く行われています。
 これは、すべての子どもが初等教育の恩恵を受けることができるように、国家が関与してきたことを示しています。 しかし、義務教育が存在することは、『教育への権利』の要素のたった一つが実現されたことを示すにすぎません。教育を選択する親の権利が認められていないかもしれないからです。

 さらに極端な状況もありえます。初等教育が強制的なもので、代金を支払う事によって画一的な国家経営の学校システムのもとで与えられ、そこから抜け出す自由を親が持っていないとしましょう。そのような場合には、教育は「フリー(訳注:無償、自由、束縛されない、などの意味がある)」という言葉のもつ、さまざまな意味にあてはまらないものとなります。

79.「子どもの最善の利益」を誰が決定するのか
 今日子どもは『教育への権利』の主体とされていますが、『教育への権利』を実現する際の意思決定には参加していません。
 国際人権法は、意思決定を親と国家の両方に委ねています。そして、親も国家も、当然のように、「自分こそが『子どもの最善の利益』を代表している」と主張してきました。

 子どもに『教育への権利』があることは、親や地域社会や国家が子どもを教育する義務に反映されていますが、それと同じように、子どもが自ら学ぶ義務でもあります。

 大人たちは「子どもの最善の利益」を図って教育の計画を立てますが、しばしば、「子どもの最善の利益」は何かということに関して食い違いが起きます。世代間の問題は、そこにも見て取る事ができます。

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翻訳:
   伊藤 美好 miyoshi@itoh.org
   古山 明男 akiofrym@sag.bekkoame.ne.jp
(2000.11.25)


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