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「『教育への権利』に関する特別報告官による声明」


「『教育への権利』に関する特別報告官による声明」について

伊藤 美好

この声明は、国連人権委員会の「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会」でなされたものです。

 『教育への権利(the right to education)』という言葉自体は、決して新しいものではありません。
 1948年に国連で採択された世界人権宣言には、すでに、「すべての人は『教育への権利』を有する」と書かれています(26条1項)。 また、1966年に採択された「経済的、社会的および文化的権利に関する条約」(国際人権A規約)の、13条と14条は『教育への権利』に関するものです。

 けれども、『教育への権利』は、長い間「教育を受ける権利」と同じものと解されてきました。実際に、日本政府は、世界人権宣言26条1項を「すべて人は、教育を受ける権利を有する」と訳しています。

 1989年、子どもの権利条約が「権利の主体としての子ども」という新しい子ども観を打ち出し、それが少しずつ受け入れられるようになってきました。
 また、1990年代半ばごろから、ジェンダー(女と男の文化的・社会的な役割)への関心が強まり、新しいものの見方が次々に生まれ、人権の概念が深められていきました。
 そこで、こうした新しい価値観で、国際人権法で定められた『教育への権利』を解釈しなおす必要がでてきました。

 1998年、国連人権委員会は、『教育への権利』に関する特別報告官を置きました。これは、国際人権法の『教育への権利』の解釈にジェンダーの視点を組み入れ、各国政府や国際機関との対話を繰り返しながら現状を分析し、『教育への権利』の実現を図るためのものです。

 最初の特別報告官が、スウェーデン・ルント大学法学部教授のカタリーナ・トマセウスキさん(クロアチア出身)です。 彼女は、1998年8月から12月まで調査を行って予備報告にまとめ、その予備報告をもとに、この声明をしました。

 彼女は、『教育への権利』に、ジェンダーの視点と「権利の主体としての子ども」という視点を組み入れて解釈し、現状を分析し、問題点を指摘しています。「無償の初等教育をすべての人に保障する」という従来通りの目標も、新しい視点を組み入れて解釈すると、まったく違う意味を持って迫ってくることがわかります。彼女の視線はいわゆる「発展途上国」だけでなく、「先進国」と言われる国にも注がれています。声明の後で行われた国別調査が、はじめにウガンダ、次に英国についてなされたことも、そうした姿勢を示していると思われます。

 この声明は、「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会」が1999年12月に出した「経済的、社会的および文化的権利に関する条約」13条の公式な解釈のベースになっています。この声明で用いられた「4つのA」(Available, Accessible, Acceptable and Adaptable:誰にでも利用できて、誰をも閉め出さず、誰にでも受け入れられ、柔軟なもの)という構造は、今後『教育への権利』を考える際の基礎となるでしょう。

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伊藤 美好 miyoshi@itoh.org
Ioホームページ:http://www.itoh.org/io/
(2000.11.25)


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