魚姫の国から
――デンマーク教育事情
第9回 コペンハーゲンの人魚姫の像

クリスマスを迎える


子どもと教育(あゆみ出版発行)
1998年12月号掲載

ツリーに灯りをともして

待つことがたのしみ

11月も後半にはいると、みなクリスマスの準備をはじめる。

店には、クリスマスの飾りや、赤色や金色のろうそくが並ぶ。クリスマスまで毎日一めもりずつ燃やしていけるよう、1から24までのめもりのついたろうそくもある。植木鉢やありあわせの皿に粘土をつめ、ろうそくを立て、森で拾ってきた葉っぱや木の実、こけなどでおおうとすてきな飾りができる。

大きなろうそく4本と、もみの木やリボンを使って「アドベント・クランツ」もつくる。12月の日曜日ごとに1本ずつ火をともしていくのだ。色紙を使って「クリスマスのハート」や「星」をつくる。それから切り絵。こうした紙細工もデンマークの伝統だ。貧しい時代にせいいっぱい生活を美しくしようとしたなごりだろうか。アンデルセンも切り絵が得意だった。

11月は風が吹いたり、雨が降ったりという日が多い。そのうえ日ごとに夜が長くなり、気がめいりそうな季節だが、家族で手仕事を楽しみながら、クリスマスを待つのは、とてもたのしい。

12月はじめに、町の中心に立てられたクリスマスツリーに火がともされる。アスコウでは、この夜はクリスマスツリーの前で鼓笛隊が音楽を奏で、グロッグという、赤ワインでつくった甘い飲み物や、エーブルスキーバという、カステラ味のまるい素朴なお菓子が配られた。どちらもクリスマスにつきものなのだそうだ。町中の人が集まってきて、いっしょに賛美歌を歌った。

家々の窓にクリスマス飾りがつるされる。ドアにはリース。庭木にも灯りがつけられる。こうしてみると、夜が長いのがかえってありがたい。夜が長ければ長いほど、灯りのともる時間が長くなるのだから。

朝、子どもたちが学校に行くとき、外はまだ真っ暗で星が輝いているけれど、道の両脇の家々の窓からはあたたかい灯りがもれ、窓飾りが見える。庭の木々につけられた灯りに雪が照らされてきらきら光る。まるでクリスマスカードの中を歩いているようだ。

下の娘のクラスでは、クリスマスのクッキーを、毎朝、子どもたちが配った。朝の苦手な娘も、それがたのしみで早く起きるようになった。毎朝窓を一つずつ開けていくと、いろいろな形のチョコレートが出てくるアドベント・カレンダーも、朝起きてすぐのたのしみの一つだった。

「クリスマスのハート」のつくり方

「光がもたらせれる」日

テレビの子ども番組では、連日クリスマスの小人たちのお話をやっていた。クリスマスの小人の好物は、米をミルクで炊いた甘いおかゆ。棚の上に置いておくと、小人たちがやってくるのだそうだ。小人の住む家には幸福が宿る。私たちの台所には、米を食べにねずみがやってきた。「クリスマスの小人は、人が見ると、ねずみに姿を変えるのよ」という話も聞いた。そう聞くと、夜、台所を走りまわるねずみの音を聞いても、小人たちがパーティを開いているような気がしてくる。

12月はクリスマスパーティがたくさんあるが、12月24日の夕方は、家で家族とともにクリスマスの食卓をたのしむ。だから、この日の夕方は、バスも止ってしまうし、電車も便数が極端に減る。商店街も閉まってしまう。

ふだんあまり教会に足を運ばないデンマーク人も、クリスマスにはさすがに教会に集まり、礼拝に参加する。

クリスマスを過ぎれば、1日ごとに昼が長くなる。まさに、「この世に、光がもたらされた」のだ。日本にいた時は、なぜキリストの誕生日を冬至にあてたのか、わからなかったが、デンマークにいると、納得がいく。

クリスマスのたのしみは、待つ楽しみだ。1年でもっとも暗く、冷たく、重苦しい時期を、もっとも明るく、あたたかく、たのしいときに変えてしまった昔の人の知恵に感心する。


伊藤美好(いとう みよし)

◇ あゆみ出版の了解を得て、インターネットに公開しています。

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