合衆国の国家安全保障戦略
(ブッシュドクトリン)
2002年9月


W.地域紛争をなくすために、他国と協力する

「我々は公正な世界を築くのだ。さもなければ、我々は圧制の世界に暮らすことになるだろう。 我々が分かち合う責任の大きさから見れば、我々の相違点などごく小さなものと思われる」
2002年5月23日
ドイツ、ベルリンにて
ブッシュ大統領


関係諸国は、危機的な地域紛争が爆発的に拡大することを避けるために、また、人的被害を最小にするために、 積極的に関わりつづけなくてはならない。以前にも増して相互に関連しあう世界では、地域的な危機が我々の同 盟関係を緊張させ、 主要各国の間の対立関係を再燃させ、人間の尊厳に対するぞっとするような侮辱を引き起 こし得る。武力衝突が勃発し、諸国が躊躇する時には、合衆国は友好国やパートナーと協力して、被害を緩和 し、安定をとりもどすために行動する。

合衆国の直接的行動あるいは間接的行動が正当化されるあらゆる状況を予測できるような理論など存在しない。 世界的な優先事項に対処するための、我々の政治的・経済的・軍事的資源は有限である。合衆国は、以下の戦略 的原則に留意してそれぞれのケースに取り組む。

イスラエル―パレスチナ間の紛争は、人的被害の甚大さ、アメリカとイスラエルや主要アラブ諸国との緊密な関 係、合衆国の他の世界的優先事項にとってのこの地域の重要性などの理由で、きわめて重大である。 両陣営にとっての自由がなければ、いずれの陣営にも平和は訪れない。 アメリカは、独立した民主的なパレスチナ、平和的に安全にイスラエルと共存できるパレスチナを実現するよう 関与する。他の全ての人々と同じように、パレスチナ人は、彼らの利益に奉仕し、彼らの声に耳を傾ける政府を 持つ権利がある。合衆国は、公正で包括的な紛争解決を図りつつ、すべての関係者が今まで以上に責任を果たし ていくように、促しつづけていく。

合衆国と国際援助供与国および世界銀行は、改革されたパレスチナ政府と協力して、経済開発、人道的支援の強 化、真に独立した司法制度を設立・資金援助・監視するプログラムを行う準備ができている。 もし、パレスチナ人が民主主義や法の支配を受け入れ、腐敗に立ち向かい、断固としてテロを拒絶するなら、彼 らはパレスチナ国家を創設するためにアメリカの支持を得ることができるだろう。

民主的なパレスチナの実現に成功すれば、イスラエルもまた大きな利益を受ける。恒常的な占領が、イスラエル のアイデンティティと民主主義を脅かしている。したがって、合衆国は、存続可能な信頼できるパレスチナ国家 の出現を支持する具体的な措置をとるよう、今後もイスラエルの指導者たちに要請していく。安全保障に関して 進展がある以上、イスラエル軍隊は2000年9月28日以前に保持していた位置まで完全に後退すべきであ る。また、ミッチェル委員会の勧告に従って、占領地区におけるイスラエル入植活動は中止すべきである。暴力 が沈静化したら、移動の自由を回復させ、罪のないパレスチナ人が仕事と通常の生活を再開できるようにしなく てはならない。合衆国は重要な役割を担うであろうが、最終的には、イスラエル人とパレスチナ人が問題を解決 し、彼らの間の紛争を終わらせることによってしか、永続する平和は訪れないだろう。

南アジアでも、インドとパキスタンが彼ら自身の紛争を解決することが必要であると合衆国は強調してきた。 当政権は、インドおよびパキスタンと強力な二国間関係を築き上げるために、時間と資力を投入した。 この地域の緊張が非常に高まった際に、我々が建設的な役割を果たすだけの影響力を得たのは、この強力な二国 間関係があったためである。 パキスタンとの二国間関係は、パキスタンがテロとの戦いに参加することを選択し、さらに開かれた寛容な社会 を構築する方向へと向かったたことによって強められた。当政権は、インドが21世紀において民主主義大国の 一つとなる可能性を有すると見ており、そのため、両国の関係を改善するよう、努力した。我々は、二国間関係 において投資を積み重ね、この地域の紛争に関与してきたが、第一に、インドとパキスタンが軍事的対立を解決 することに役立つような具体的な措置を取ることに注意を払う。

インドネシアは、機能する民主主義と法の支配への尊重を創り出そうと、勇気ある行動を起こした。 いくつかの近隣諸国が貧困と絶望から立ちあがるのを助けたような機会を生む原動力を、インドネシアも、民族 的マイノリティへの寛容政策、法の支配の尊重、自由市場の受け入れなどにより、手にすることができるかもし れない。合衆国の援助が変化をもたらすかどうかは、インドネシアがどうするかにかかっている。

西半球において、我々は優先事項を共に担う国々、特にメキシコ、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビアなどと 柔軟な連帯関係を形成してきた。我々の統合が安全保障と繁栄、機会と希望を前進させるような、真に民主的な 西半球をともに実現していく。我々は、西半球全体の利益のために、米州首脳会談のプロセスや、米州機構 (OAS)および米州国防大臣会議など、地域機構と協力していく。

ラテンアメリカの一部では、地域紛争、ことに、麻薬カルテルとその共犯者たちの暴力から生じる地域紛争が起 きている。こうした紛争や野放しの麻薬不法取引は、合衆国の保険衛生と安全保障を危機にさらしかねない。し たがって、我々は、アンデス諸国が経済を整備し、法制度を整え、テロ組織に打ち勝ち、麻薬供給を断ち切るよ うに支援するため、積極的な戦略を展開してきた。同時に(同様に重要なことだが)、我々は、我が国における 麻薬の需要を減らすように努める。

コロンビアでは、国家の安全を揺るがすテロリストや過激主義者のグループと、こうしたグループの活動資金源 となる麻薬の不法取引活動との関連を我々は認識している。我々は、コロンビアが民主的機関を防御し、領土全 域に効果的な統治を広げることで、左翼および右翼の非合法武装グループを打ち負かし、コロンビア国民に基本 的な安全保障を提供できるように、支援をしている。

アフリカにおいては、約束と機会が疾病や戦争や絶望的な貧困と並存している。このことは、人間の尊厳を護る という合衆国の核心的な価値と、全世界でテロと戦うという戦略的優先課題の双方を脅かしている。そのため、 アメリカの利益とアメリカの原則は、同じ方向をめざしている。すなわち、我々は、他国とともに、自由で平和 で繁栄を続けるなかで生きるアフリカ大陸を実現するために行動する。ヨーロッパの同盟国とともに、我々はア フリカの虚弱な国家を強化し、現地の人々が、穴だらけの国境線をしっかりと管理する能力をつけ、テロリスト たちに隠れ家を与えないために、法執行機関と諜報活動の基盤を整えるように支援を行う。

内戦が国境を越えてひろがり、地域全体を紛争地帯にしてしまうという、さらに致命的な状況がアフリカには存 在する。 このような国境を越えて出現しつつある脅威に立ち向かうためには、やる気のある国家が連帯し、協力して安全 保障措置をとることが重要である。

アフリカは広大で多様なため、安全保障戦略においては、二国間協定およびやる気のある国家で連帯関係 を構築することに焦点を当てる必要がある。
当政権は、この地域について、以下三つの連動する戦略に焦点を定める。

サハラ砂漠以南のアフリカにおける多くの戦争は物的資源とその政治的利用権をめぐって、しばしば民族や宗教 の違いをもとに起きる悲劇的な紛争である。この地域が発展するためにもっとも確実な道は、結局、政治的・経 済的自由へと至る道である。民主的な政治制度に対する共同責任および良い統治を確定した方針とするアフリカ 連合へ移行することで、アフリカ大陸において民主主義を強化する機会がもたらされる。



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