続 パンケーキの国で 〜新聞に書ききれなかったこと〜

テレビニュースごっこ

町中の人がきちんと答える

1999年2月15日 upload

ステファニーちゃんたち

玄関のブザーが鳴る。ドアを開けてみると、上の娘の友達の、ステファニーちゃんとティナちゃんが立っている。手に、ソニーのテープレコーダを持っている。

「遊ぶの?ちょっと待ってね」と、娘を呼ぼうとすると、首を振って、真面目な口調で、「テレビニュースです。ガンルーセはよい町だと思いますか?」と言う。

「え?なんのこと?」と聞いても、テープレコーダを突き出して、「ガンルーセはよい町だと思いますか?」と繰り返すのみ。

とまどいながら、「はい、ガンルーセはよい町です…これでいいの?」と言うと、「どこがよいと思いますか。日本と比べてどう思いますか」と聞く。

「えーと、自然がいっぱいあって、きれいで、人が親切で、私たちは、この町が大好きです」と答える。「どうもありがとうございました。じゃね」と向こうに行くので、「どうしたの?」と呼びかけると、「テレビニュースごっこ!」と叫びながら走っていく。

なんだったんだろうと思っていると、30分後、またブザーの音。さっきの二人だ。今度は、「遊べる?」と言って、入ってくる。

さて、それからさっきのテープを再生して、げらげら笑い転げる。

「それ、なあに?」「テレビニュースごっこ」

そうなのだ。あれは、ニュースの、インタビューごっこだったのだ。

◎ ◎ ◎

聞いてみると、音楽も、ナレーションも入って、なかなかうまくできている。

「みなさんこんにちは。テレビニュースです。今日は、ガンルーセについて、町の人たちに聞いてみましょう」。ブザーの音。「ガンルーセはよい町だと思いますか?」「ああ、いい町だと思いますよ」「どこがよいと思いますか?」「自然があるところですね」。次の家で、「悪いところは?」「交通が不便ね。バスの便がもっとあるとよいと思うわ」…「あそこを歩いているおばあちゃまに聞いてみましょう。ガンルーセはよい町だと思いますか?」「ええええ、いい町ですよ」…「このパン屋さんで聞いてみましょう」…「あそこに引っ越してきたばかりの人がいます。聞いてみましょう。どうして、この町に引っ越してきたのですか?」「子どもを自然の豊かなところで育てたかったんですよ」…町中の人に聞いている。すごいと思うのは、聞かれた人が、みんな本当のテレビのインタビューに答えるように、きちんと答えていることだ。

実は、これはテレビニュースシリーズの第三弾だった。最初のは、コンピュータについて、家族にインタビューしたもので、とても短い。次のテーマは「食べ物」。母親に今夜のおかずを聞いた後で、町を車でまわるアイスクリーム売りのお兄さんに、「今日のおすすめのアイスクリームはどれですか」と聞き、さらに、町に二軒あるレストランに行って、「今、何をつくっているのですか。今日のメニューは何ですか」と聞いている。レストランの人は、忙しい手を休めて、ていねいに答えている。これに味をしめて、第三弾へと発展したわけだ。

◎ ◎ ◎

日本の人に、この話をしたら、「どうしたら、そういう意欲を引き出せるのか、それを知りたい」と言われて、びっくりした。

意欲や興味というのは、引き出すものではない。内から湧いてくるものだ。テレビニュースごっこについていえば、テープに吹き込むのがおもしろそうだからやってみて、それを、大人の人たちが受けとめてくれたので、さらにおもしろくなって、遊びが発展していったのだろう。 これが、学校に提出する「自由研究」の類ではなく、単なる遊びだということ、そして、それに町の人たちが、まじめに付き合ったこと、意欲を引き出すだの、関心を伸ばすだのといった余計なことを、誰も思わなかったこと。

そこがいいところだ、と思うのだが。

伊藤美好(いとう みよし)

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