パンケーキの国で 〜子供たちと見たデンマーク〜 ◆ 5

林間学校

『自分にとって、必要なもの』って何?

東京新聞:1998年2月10日掲載

「スパゲッティだって、はしで食べられるよ!」異文化に興味津々の子供たち

息子が2泊3日の林間学校に行く事になった。学校からもらってきたプリントに、持ち物がいろいろ書かれている。

「弁当2つ(朝・昼用)、飲み物、寝袋または毛布、着替え、懐中電灯、ナイフ、小遣い、その他」とある。 弁当はともかくとして、他のものは持っていない。 それに、「その他」とは何だろう。息子と一緒に担任の先生に聞いてみた。

「おなかがすくからお弁当は忘れないでね。寝袋は私がいくつか持っているから貸しますよ。 あとは、自分が要ると思うものを持って来ればいいでしょう。 木を削って遊びたければナイフが要るし、夜に外に出たいなら、懐中電灯が、ね。 その他というのも、そういう意味」

「日本語の本やマンガやゲームボーイを持っていってもいいんですか?」 「それはいい考えね。そういう物を持っているとちょっとほっとするだろうし、他の子に見せることもできるし」 「お小遣いはいくらくらい?」 「自分が必要と思う額。お菓子やおみやげを買うでしょ」

「起床時間と就寝時間は?」 「起きるのは7時半、寝るのは疲れた時」 ああ、日本と違うなあ、とその時つくづく思った。 こまごまと、持って来てよいもの、いけないものや、小遣いの額を決めて、それをいちいちチェックする、という日本の学校の旅行が頭にあった私には、ちょっとしたショックだった。

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考えてみれば、人によって必要なものは違うのだから、それぞれが自分に必要なものを持って来ればよいわけだ。 寝る時間も、次の日に起きられさえすれば、何時であってもかまわないのだろう。

息子に聞くと、釣り道具を持って来て釣りに行った子たちもいれば、CDプレーヤーを持って来て踊りまくった子達もいたという。 宿舎の隣りのキオスクには、お菓子を買う子が列をなしていたそうだ。

学校では、普段から持ち物や服装の制限はない。低学年の子はおもちゃや縫いぐるみを持って来る。 ゲームボーイは全学年に人気がある。お菓子は、持っても来るし、学校でも売っている。 ピアスをしたり、髪を染めたり(もともと金髪なので、緑色や紫色などに染める)、お化粧したりするのが非行につながるなんて言う人はいない。

それよりも、いろいろなことをやってみて、自分が本当にやりたいことを見つけたり、自分にとって必要なものは何か、考えることが大切だ、という思いが先生にも親にも強いように感じた。 子供のうちに試行錯誤をいっぱいした方が、ものごとをきちんと判断できる大人に育つ、という考え方のようだ。

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ある日、息子が言った。 「デンマークの子は、しょっちゅう危ないことや悪いことをするけど、ほんとうにけがしたり、人を傷つけるようなことはやらないみたいな感じ。 日本の子は、普段は危ないことをしないのに、人にけがさせるようなことをするような感じ」

私たち今の日本人は、子供を危険に合わせまいと事細かな規制をすることで、かえって本当にしてはいけないことは何なのか、判断する機会と能力を子供たちから奪ってしまっているのではないか。そんなことを考えた。

伊藤美好(いとう みよし)

※ 東京新聞の了解を得て、インターネットに公開しています。

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