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北欧の民話から 〜パンケーキのお話〜


北欧民話の「パンケーキのお話」です。
繰りかえしが多くて、ごろあわせが多くて、お話をしてくれる人のまわりに子どもたちが
むらがって、げらげら笑いながら、いっしょに声を合わせて言ったりしたんだろうなあと
思わせるようなお話です。
ごろあわせのところは、あんまりうまくいきませんでしたけど・・

*   *   *

むかしむかし、ひとりのおかみさんがいました。
おかみさんには、はらぺこの子どもたちが7人いました。
そこで、おかみさんは、お母さん牛が、生まれたての赤ちゃん牛のために出すミルクを使って、子どもたちにパンケーキを焼いてやることにしました。

子どもたちは、おかみさんの焼くパンケーキのまわりをぐるりとかこみ、おじいちゃんはすわって見ていました。
パンケーキは、フライパンの中でふっくらと厚く、いいかんじに焼けています。

「ねえ、かあちゃん、パンケーキをひとっかけだけちょうだい、お腹がすいちゃったよ」と、ひとりの子がいいました。
「ねえ、だいすきなかあちゃん」と、ふたりめの子がいいました。
「ねえ、だいすきな、やさしいかあちゃん」と、3人めの子がいいました。
「ねえ、だいすきな、やさしい、すてきなかあちゃん」と4人めの子がいいました。
「ねえ、だいすきな、やさしい、すてきな、すばらしいかあちゃん」と、5人めの子がいいました。
「ねえ、だいすきな、やさしい、すてきな、すばらしい、いいかあちゃん」と、6人めの子がいいました。
「ねえ、だいすきな、やさしい、すてきな、すばらしい、いい、しんせつなかあちゃん」と、7人めの子がいいました。

そして、みんなでパンケーキをちょうだいといいました。
どの子もほかの子よりすこしだけ熱心にたのみました。
みんなやさしい子たちでしたが、とってもおなかがすいていたのです。

「まあまあ、あんたたち、これがひっくりかえるまで、もうちょっと待ちな。」おかみさんは言いました。
・・・ほんとは『あたしがこれをひっくり返すまで』、と言わなくちゃいけなかったんですけどね・・・
「そうしたら、みんなパンケーキを食べられるよ。ほらごらん、なんてふっくら厚く、うまいこと焼けてるもんか」

パンケーキはこれを聞いて、こわくなりました。
それで、からだをおりまげて、フライパンから飛び出しそうとしました。
でも、まだ焼けてないがわを下にして、フライパンの中に落っこちてしまいました。
そっちのがわも焼けてくると、パンケーキのからだがもっとかたくなりました。
そこで、パンケーキはそれっと跳びあがり、床に落ちると、車輪のように転がって、戸口を出て、道の方へ行きました。

「ほい、とまれったら!」おかみさんは片手にフライパンを、もう一方の手におたまをもっておっかけました。
そのあとに子どもたちが続き、その後ろからおじいちゃんがひょこひょこついてきました。

「おーい、待ちなー!ほら、あれをつかまえて!取って!止めてよ!」
みんな口々にさけび、パンケーキをつかまえようとしました。
でも、パンケーキはころころ転がっていきました。
そして、あんまり遠くに行ってしまったので、もう見えなくなってしまいました。
パンケーキは、ほかのみんなより、ずっと足がじょうぶだったんですね。

それからパンケーキがまたもう少し転がっていくと、男の人に会いました。
「こんちは、パンケーキさん」男の人がいいました。
「こんちは、火事おじさん(mand brand )」パンケーキもいいました。

「だいすきなパンケーキさん、そんなにはやく転がらないで、ちょっと止まって私にあんたを食べさせておくれよ」と、男の人はいいました。

「ぼくは、王様のおかみさん(kone krone)と、おじいちゃんと、金切り声をあげている子どもたち7人から逃げてきたんだから、あんたからだって逃げられるよ、火事おじさん」とパンケーキは答えて、ころころ転がっていきました。

そしてこんどはめんどりに会いました。
「こんちは、パンケーキさん」めんどりがいいました。
「こんちは、めんくいめんどりさん(hoene poene)」パンケーキもいいました。

「だいすきなパンケーキさん、そんなにはやく転がらないで、ちょっと止まって、わたしにあんたをつつかせておくれよ」と、めんどりはいいました。

「ぼくは、王様のおかみさんと、おじいちゃんと、金切り声をあげている子どもたち7人と、火事おじさんから逃げてきたんだから、あんたからだって逃げられるよ、めんくいめんどりさん」とパンケーキは答えて、ころころ転がっていきました。

そしてこんどはおんどりに会いました。
「こんちは、パンケーキさん」おんどりがいいました。
「こんちは、おんぶのおんどりさん(hane pane)」パンケーキもいいました。

「だいすきなパンケーキさん、そんなにはやく転がらないで、ちょっと止まって、わたしにあんたをつつかせておくれよ」と、おんどりはいいました。

「ぼくは、王様のおかみさんと、おじいちゃんと、金切り声をあげている子どもたち7人と、火事おじさんと、めんくいめんどりさんから逃げてきたんだから、あんたからだって逃げられるよ、おんぶのおんどりさん」とパンケーキは答えて、ころころころころ転がっていきました。

ながいこと転がっていって、パンケーキはあひるに会いました。
「こんちは、パンケーキさん」あひるはいいました。
「こんちは、まひるのあひるさん(ande vande)」パンケーキもいいました。

「だいすきなパンケーキさん、そんなにはやく転がらないで、ちょっと止まって、わたしにあんたをつつかせておくれよ」と、あひるはいいました。

「ぼくは、王様のおかみさんと、おじいちゃんと、金切り声をあげている子どもたち7人と、火事おじさんと、めんくいめんどりさんと、おんぶのおんどりさんから逃げてきたんだから、あんたからだって逃げられるよ、まひるのあひるさん」とパンケーキは答えて、ころころころころ、できるだけはやく転がっていきました。

ながい、ながいあいだ転がっていくと、めすのガチョウに会いました。

「こんちは、パンケーキさん」めすのガチョウはいいました。
「こんちは、めっちゃなめすガチョウさん(gaase vaase)」パンケーキもいいました。

「だいすきなパンケーキさん、そんなにはやく転がらないで、ちょっと止まって、わたしにあんたをつつかせておくれよ」と、めすのガチョウはいいました。

「ぼくは、王様のおかみさんと、おじいちゃんと、金切り声をあげている子どもたち7人と、火事おじさんと、めんくいめんどりさんと、おんぶのおんどりさんと、まひるのあひるさんから逃げてきたんだから、あんたからだって逃げられるよ、めっちゃなめすガチョウさん」と、パンケーキは答えて、また転がっていきました。

またまたながい、ながいあいだ転がっていくと、おすのガチョウに会いました。

「こんちは、パンケーキさん」おすのガチョウがいいました。
「こんちは、ガチョーンのおすガチョウさん(gase vase)」パンケーキも答えました。

「だいすきなパンケーキさん、そんなにはやく転がらないで、ちょっと止まって、わたしにあんたをつつかせておくれよ」と、おすのガチョウはいいました。

「ぼくは、王様のおかみさんと、おじいちゃんと、金切り声をあげている子どもたち7人と、火事のおじさんと、めんくいめんどりさんと、おんぶのおんどりさんと、まひるのあひるさんと、めっちゃなめすガチョウさんから逃げてきたんだから、あんたからだって逃げられるよ、ガチョーンのおすガチョウさん」と、パンケーキは答えて、ころころころころ、もう、できるかぎり速く転がっていきました。

ながい、ながいあいだ転がっていくと、豚に会いました。
「こんちは、パンケーキさん」豚がいいました。
「こんちは、こんがりこぶたちゃん(gylte grisesylte)」 パンケーキも答えて、もっところころ転がろうとしました。

「だめだめ、ちょっと止まりなよ」豚はいいました。
「そんなに忙しくするこたあないじゃないか。いっしょにのんびり森を歩いていかないかい。森の中はあんまり安全てわけじゃないんだしさ」
そのとおりかもしれないとパンケーキは思いました 。
そこで、ふたりはいっしょに森を行きました。

でも、少し行くと、小川がありました。豚は、とんと気にせず、水の中にじゃぶじゃぶ入っていきました。でも、パンケーキは水に入れません。

「ぼくの鼻の上に乗っかれよ」豚はいいました。
「そしたらあんたを運んでやるからさ」

そこで、パンケーキはそうしました。

「ブフッ、ムシャッ」豚はそういうと、パンケーキを口いっぱいにほうばり、飲み込んでしまいました。

パンケーキがもういなくなっちゃったので、このお話ももうおしまい。

*   *   *

FOLKEEVENTYR i udvalg ved Franz Berliner, Asbjornsen og Moe より

北欧でパンケーキというと、ふつう、薄い、フランスのクレープのようなものなのですが、このお話のパンケーキは、ふっくら厚いとなっているので、たぶんロシア風のパンケーキというものなのでしょう。お話自体も、これとそっくりなロシアの民話からきているのかもしれません。

・ロシア風パンケーキ

材料
バター30グラム
ミルク2dl
小麦粉50グラム
卵黄2個分
小さじ4分の1
卵白2個分
あぶら(バター)20グラム
ジャム、粉砂糖

・つくりかた

ミルクとバターを沸かします。
次に、小麦粉を加えて、たねがなめらかになるまで強くかきまぜます。
たねのあら熱を取ります。
卵黄を1個ぶんずつ、たねに入れてかきまぜます。
数分間かきまぜると、たねがなめらかに、つやつやとしてきます。
塩を混ぜます。
卵白を固く泡立てて、たねに混ぜ込みます。
小さいフライパンで、厚みのあるパンケーキを2枚焼きます。
一枚目のパンケーキは鍋の蓋に取り出しておいて、2枚目のパンケーキの上にジャムを塗り、一枚目のパンケーキをのせ、上に粉砂糖をかけます。
あたたかいうちに、どうぞ。

・北欧風パンケーキ

材料
小麦粉125グラム
ミルク3dl
2個
小さじ4分の1
あぶら(バター)30グラム

・つくりかた

粉とミルクをへら(できれば泡だて器)でまぜます。卵を泡立てて、そこに塩を入れ、たねにまぜます。フライパンであぶら(バター)を温めて溶かし、たねにまぜます。
中火で薄いパンケーキを焼きます。
パンケーキを焼くたびに、フライパンにあぶらをひくのをわすれないように。

*   *   *

デンマークの小麦粉には、強力粉と薄力粉の区別がありません。地粉、というのか、中力粉というのか、そんな感じの粉です。 だから、クレープのように薄くても、フランス風のクレープよりやや粘りがあって、ちょっと重たい、素朴な味がします。



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